プラスチックフィルムを使った食品の包装方法は多岐に渡っています。たとえば、粉末や液体が入っている小袋や菓子の個包装、中身の酸化防止や防湿のためのバリア包装、少量ずつ使うものには再封性を付与した「ジッパー付きパウチ」、品質保持のためパウチ内の空気を抜いた「真空包装」、缶や瓶の代替となる内容物の長期保管が可能な「レトルトパウチ」、最近では利便性のため袋に口栓を付けた「スパウト付きパウチ」などが挙げられます。このなかで、ポリ塩化ビニリデンコートフィルムはバリア包装の分野に属します。バリア包装によって中身の食品の品質保持期間を延長することが可能になります。
食品包装材料に求められる三大機能として、１）内容物の保護、２）取扱いの利便性、３）情報の提供があります。食品は基本的には劣化しやすいものです。その食品の賞味期限を延長させる機能を包装材料が担うことで、安心安全な食品を消費者に届けられ、食品廃棄量の減少や酸素、水蒸気または光などに弱い食品も、長期保管を可能にします。また、包装材料で食品を保護することで、保管、保存性が向上し、内容物の取出しやすさや、再封性なども付与されます。そして、包装材料にはその食品に関する、調理法や栄養成分表示、食べ方、楽しみ方などが明記され、まさに「包装はセールスマン」と言われるゆえんです。これらの機能を最大限発揮することが、食品包装に求められる性能であると言えます。
ポリ塩化ビニリデンは1933年に開発された合成樹脂ですが、合成樹脂のなかでも比較的歴史が古く、防湿性、ガスバリア性の付与を目的としてコート製品としても利用されています。1963年にポリ塩化ビニリデンコートセロファンがひねり飴などに、1960年代後半にポリ塩化ビニリデンコートポリプロピレンフィルムが菓子類などの軽包装に使用されました。その後1970年代になるとポリエチレンテレフタレート（PET）フィルム、ポリアミド（ナイロン）フィルムにもコートされ、重量物、ボイル・レトルト用途にも使用可能となり現在に至っています。
ポリ塩化ビニリデンのたいへん細かい粒子が水の中に浮いた状態のもの（ラテックス）と粉末状のポリ塩化ビニリデン（レジン）を溶剤に溶かして使うものがあります。これらを食品や医薬品を包むフィルムに塗って乾燥させることにより、この細かいポリ塩化ビニリデンの粒子がお互いに付着し合い皮膜状になります。この皮膜が酸素と水蒸気（水分）を通しにくくするので、食品や医薬品を長もちさせることができます。
ポリ塩化ビニリデンを薄くコートしたフィルムの総称で、基材フィルムのもつ特長に加え、ガスバリア性も兼ね備えた包装材料として各種分野で利用されています。コート面にさらに、シール性をもたせるフィルム層（ポリエチレンなど）を積層し、このシール層を食品接触面として用いるのが一般的です。包装フィルム断面の例を下図に示します。
ポリ塩化ビニリデンコートフィルムは、以下の特長をもつ優れた包装材料です。 １）外部の湿度変化に対し、安定したガスバリア性を保持します。 ２）水蒸気バリア性を併せもち、食品の水分を保持し、吸湿を抑えます。 ３）特に酢、醤油などを使用する食品の保香性に優れます。 ４）耐摩耗性、耐屈曲性に優れ、包装袋のピンホール発生を抑えます。
コート剤もポリ塩化ビニリデンそのものと同じように安全性について規定されています。具体的には、食品衛生法による国のポジティブリスト制度と一般規格および素材別の個別規格を制定している規格基準です。
代表的なポリ塩化ビニリデンコーターの全体模式図（図1）を示します。 ポリ塩化ビニリデンコートフィルムは、各種プラスチックフィルムに、ポリ塩化ビニリデンコート剤を塗布した後、乾燥して作ります。塗布方法は、工業的にはエアナイフコーターやリバースグラビアコーターなどを用います。 エアナイフコーターは、図2に示すように、コートパンにあるコート剤をロールで転移させ、コートします。コート量はノズルから吹き付ける空気で調整します。また、リバースグラビアコーターは、図3に示すように、塗工するフィルムに対して、コート剤を逆回転するグラビアロールでコートします。コート量はグラビアロールに刻まれる凹凸のパターン・深さで調整します。
ポリ塩化ビニリデンコートフィルムには酸素、および水蒸気（湿気）を通しにくい特性があり、これで包装することで食品を酸化や腐敗から守ることができるので、保存性が飛躍的に向上します。 また、折れ・曲げ・摩擦・突刺しなどへの耐久性にも優れているので、さまざまな形状・用途にも用いられています。 そのような性能が安定していることを検査するため、 ・酸素および水蒸気が一定環境、一定時間下でどれくらい透過するか ・折れ・曲げ・摩擦・突刺しを機械的に再現し、酸素および水蒸気の透過性がどれくらい変動するか などを試験しています。
ポリ塩化ビニリデンは、少ない量でも充分な食品保存効果が得られる素材です。 たとえば、ポリ塩化ビニリデンを他フィルムなどに薄くコートでするだけで、酸素の透過は数倍から数百倍小さくなります。ポリ塩化ビニリデンのコートをせずに、同程度の酸素バリア性（酸素を通さない性質のこと）を得るには、数倍から数百倍のフィルムの厚さが必要になります。 つまり、ポリ塩化ビニリデンコートフィルムは、樹脂の量が少ない分量で済むので、他の素材フィルムと比べると、製造時に必要なエネルギーや排出ガス（二酸化炭素）なども少ないと言えます。 また、ポリ塩化ビニリデンの約70％は、塩（塩化ナトリウム）由来です。塩は海などから大量に採取できる、豊富な資源のひとつであり、他素材と比べて石油資源の節約に貢献できます。
容器包装リサイクル法により、収集されたポリ塩化ビニリデンコートフィルムは他の素材とともに処理されます。樹脂などの原料や製鉄所の還元剤などに利用（ケミカルリサイクル）されたり、ごみ焼却熱利用、ごみ焼却発電、セメント原燃料化などによりエネルギー回収（サーマルリサイクル）されています。 材料として再利用（マテリアルリサイクル）される場合は、生産量の多いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートが主に対象になっています。ポリ塩化ビニリデンコートフィルムは複合フィルムなので材料としての再利用には不向きです。
