塩化ビニリデン技術協議会

ポリ塩化ビニリデンは、合成樹脂のなかでも比較的歴史が古く、1940年頃に米国のダウケミカル社により繊維として生産が開始されました。わが国では、1953年に呉羽化学（現クレハ）が自社開発の技術で、また、同年に旭ダウ（現旭化成）がダウケミカル社からの技術導入によって、それぞれ国産化を始めました。

ポリ塩化ビニリデンの大きな特長は、「酸素と水蒸気の両方に対して優れたバリア性（気体を通さない性質）」をもつということであり、しかも「湿度の高い状態でも優れた酸素バリア性」をもっています。これらは他の樹脂にはないポリ塩化ビニリデンのみがもつ性質です。
酸素の透過をさえぎることで酸化による食品の変質を防止し、水蒸気の透過をさえぎることで食品のみずみずしさを保ったり湿気を防いだりすることができます。その他、各種ガスのバリア性にも優れていて、食品の香りを保ったり、移り香を防いだりして、食品の保存性を高めることができます。この優れたバリア性を利用して、ハム・ソーセージのような保存食品用の包装フィルムへの用途が開け、さらに家庭用ラップに商品展開され、生活に身近な存在として広く利用されるようになりました。また、紙や他のプラスチックフィルムにバリア性を与えるためのコート剤としての用途にも拡がりました。

各種素材ラップ物性比較

塩（塩化ナトリウム）の電気分解により得られる塩素と、石油の熱分解により得られるエチレンから、以下の化学反応の工程を経て、「塩化ビニル」と「塩化ビニリデン」が作られます。

ポリ塩化ビニリデンとポリ塩化ビニルは、化学式を見るとポリ塩化ビニリデンの方が塩素を1個余分にもっているだけで、よく似ているように思われます。しかし、この相違はポリマー分子の構造に大きな違いをもたらし、物性上にも大きく影響しています。この物性上の差は製品の特性にも反映して、バリア性に見られる格段の差や耐熱性などの差にも表われており、用途もおのずから異なっています。

わが国の食品衛生法では食品用プラスチック製器具・容器包装の規格基準として、一般規格および素材別の個別規格を制定しています。ポリ塩化ビニリデンについては、1982年の厚生省告示第20号により、材質試験と溶出試験の規格が定められました。材質試験としてはカドミウム、鉛、バリウム、塩化ビニリデンモノマーが、溶出試験としては重金属、蒸発残留物（総移行量）、過マンガン酸カリウム消費量が規定されています。
また食品用の器具・容器包装に係る規制内容については、2020年（令和2年）6月1日に改正食品衛生法が施行され、合成樹脂について、今まで業界自主基準で管理されていた製品に使用できるポリマーと添加剤は、第18条第3項で新たに規定する事により、国のポジティブリスト制度で管理されることとなりました。
従ってポリ塩化ビニリデンについても、2020年6月に改正施行されたポジティブリストへの適合と、従前からの一般規格および個別規格への適合が必要となります。

ポリ塩化ビニリデンを原材料にして作られた家庭用ラップには添加剤として柔軟剤や安定剤が使われています。これらの添加剤は国のポジティブリストに収載されたものを使用し、EUあるいは米国FDA（アメリカ食品医薬品局）でも食品包装用プラスチック用添加剤として認可されているものです。
具体的には、「脂肪酸誘導体（柔軟剤）」と「エポキシ化植物油（安定剤）」が添加されています。

ポリ塩化ビニリデン製ラップの箱には、「使い終わったラップはプラスチックごみとして各自治体の定める方法に従って廃棄してください」との注意表示が記載されています。ポリ塩化ビニリデン製ラップの廃棄にあたっては、分別廃棄が実施されているところはプラスチックごみとして廃棄するなど、他の一般ごみと同様に各自治体の定める方法に従って廃棄していただくことが大事になります。

ダイオキシンは、焼却方法が悪ければ、どんなゴミからも発生する可能性があります。そのための最善の解決策として、ゴミの焼却施設と焼却条件の適正化が行われました。現在は800℃以上の燃焼温度で焼却が行われ、ダイオキシンはほとんど発生しなくなりました。

容器包装リサイクル法により、収集されたポリ塩化ビニリデンフィルムは他の素材とともに処理されます。樹脂などの原料や製鉄所の還元剤などに利用（ケミカルリサイクル）されたり、ごみ焼却熱利用、ごみ焼却発電、セメント原燃料化などによりエネルギー回収（サーマルリサイクル）されています。
材料として再利用（マテリアルリサイクル）される場合は、主に生産量の多いポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートで行われています。生産量の少ないポリ塩化ビニリデンではその回収量が少なく、しかも、ソーセージなどの食品包装に使われているため、きれいな状態での回収が難しく、材料としての再利用には適した材料ではありません。

ポリ塩化ビニリデンは、一般のプラスチックと同様に、体内で消化、吸収されずにそのまま排泄されます。また、添加剤についてもその安全性が認められています(A7参照)。したがって、誤って食べてしまった場合も心配ありません。

油性の強い食品（肉、魚、天ぷら、コロッケなど）を直接包んで電子レンジで加熱する場合、食品が高温になってポリ塩化ビニリデン製ラップの耐熱温度である140℃を超えることがあります。このときラップが食品に接触しているとラップが破れ、ラップの機能（水分や香りを逃さないなど）が発揮できなくなることがあります。油性の強い食品を電子レンジで加熱する場合は、ラップで直接包まず、食品を深めの耐熱容器に入れ、ラップは食品に直接触れないように容器にかぶせてお使いください。

当協議会会員2社が製造・販売しているポリ塩化ビニリデン製ラップフィルム（サランラップ、NEWクレラップ）は包装箱に明示してあるとおり食品包装用ラップフィルムであり、医療用に使用されることを前提には製造されておりません。
したがって、食品包装用途以外の使用はご遠慮ください。